アートのコツライブラリー

2009年3月15日日曜日

アートがわかるコツ

今回の「アートのコツ」は、アートホリック編集人・田中由紀子が「アートがわかるコツ」について書かせていただきました。

最近まで関わっていた展覧会で協力いただいた方々から、「私たちには抽象的な作品や前衛的なアートはよくわからないので、注釈をつけて」という声を聞くことがありました。では、どんな作品なら「わかる」のでしょうか? そもそも、アートが「わかる」とはどういうことなのでしょうか?

そういえば、指揮者の新田ユリさんが新聞のコラムに、演奏会後のアンケートには「知っている曲だったので良かった」「知っている曲がなくて残念だった」というものが少なくなく、聞いたことがあるメロディだと「わかる」という状態になり楽しくなるが、知らない曲に対してはつまらないという感情を持つようだ、と書いていました。アートについても同じことが言えるのではないでしょうか。

たとえば、ゴッホの《ひまわり》。この作品を「わかる」というのは、「(本物かどうかは別にして)見たことがあり知っている」もしくは「描かれているのがひまわりだとわかる」を意味する場合が多いでしょう。しかし、それでわかったことになるのでしょうか?

「アートは感性で楽しむもの」と言われることがありますが、アートは感じるものではなく学習するものです。ここでいう学習とは美術史を学ぶことではなく、さまざまな作品を見るという視覚体験を積み重ねることです。たしかに、私たちは見たことがないものに対してどう認識すべきか戸惑うと楽しく感じられない状態になりがちです。しかし、これまでの視覚体験で得られた情報から類推し、さまざまな想像を巡らせるうちに「わからない」ことにワクワクし、「わからない」状態を楽しめるようになるのではないでしょうか。

「わかる」という状態は安心できますが、わかってしまったら面白くないことも世界にはたくさんあります。わからないから楽しい、わからないから考える、そこからさまざまな発見をして世界を広げてくれるのが、アートの魅力なのではないでしょうか。

写真:川見俊《untitled(tenryu river)》写真、2008年