アートのコツライブラリー

2008年12月15日月曜日

アートと社会をつなぐコツ

「アートのコツ」は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は、よろずアートセンターはちの新見永治さんに「アートと社会をつなぐコツ」を教えていただきました。

よろずアートセンターはちの新見です。よろずアートセンターはちと言ってもまだ馴染みがないかと思いますが、カフェ・パルルの隣や2階にスペースを持ってい ます。社会という複雑に絡み合い制約も多い環境の中でいかに人が自由を獲得するかということに僕は興味があります。自由というものを考えたりそれを手に入 れるための道具としてアートはとても優れていると考えます。

はちではアート自体もより幅広くとらえようとの姿勢で、展覧会だけでなくアートに隣り合っていると思えるような事柄も積極的に紹介しています。

例 えば今年の9月には「場と対話するアート」というシンポジウムを行ないました。現代美術製作所の曽我高明さん、アーティスト三田村光土里さんの生活空間の 中でANEWAL Galleryの飯高克昌さんをゲストに迎え、東京や京都での活動を紹介してもらい生活空間の中でアート作品がどんな働きができるのか、その可能性につい て語り合いました。地元からは正色隊による名古屋の古い町並みの残る地域のお話やベッキヰの歓迎パフォーマンスを披露しました。
http://www.parlwr.net/2008/08/post_3a7b.html

なごや自由学校との協力でこれまで何度か行なった伊田広行さんの講座は、いつも刺激的です。家族とは結婚とは何なのか。ゲイカップルの遺産相続はどうするのか。恋愛関係は1対1がベストなのか。などなどお話を聞くだけではなく参加者も自分の問題を話し合ったりもしました。
http://www.parlwr.net/2007/11/10_d11a.html
http://www.parlwr.net/2007/07/post_1a74.html

ジャ ズの熱心な聞き手であった自分が、ある時ピーッという単調な電子ノイズが音楽として聞こえるようになった瞬間を語ってくれたのは、ミュージシャンで批評家 でもある大谷能生さんです。録音技術の発明とポピュラー音楽の隆盛が両輪のように絡み合っていたこと、またその傍らには黒人の音楽であるジャズが蠢いてい たことをまるで現場にいるかのような臨場感で話して聞かせてくれました。
http://www.parlwr.net/2007/12/post_fc3c.html

素 人の乱の松本哉さんたちによる映画の上映会とトークイヴェントは、今年8月に行なわれました。今や突然クローズアップされている貧困や非正規雇用の問題を あっと驚くしかもおバカな手法で世に問いかけ続けています。「革命後の世界を先につくる!」という彼らの言葉には圧倒されます。
http://www.parlwr.net/2008/08/post_7fe5.html

こ んなふうに紹介してきたいろいろな動きはいずれも社会の一番敏感な部分に接しています。いずれもアートと切り離せない問題を含んでいると思うし、その火花 飛び散るようなエネルギー溢れる活動の現場自体がとてもアーティスティックです。僕にとっては、そこはまさに新たなアートが生まれるホットスポットなので す。


新見永治
よろずアートセンターはち運営

写真:期間限定のみのいち『サトーココノカドー』の様子

2008年9月15日月曜日

アートな場を作るコツ

「アートのコツ」は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回はアニメーションテープス代表の林緑子さんに「アートな場を作るコツ」を教えていただきました。

私は東海地方を中心に、主に個人ベースで制作された短編アニメーション作品の上映会を2000年11月より自主企画しています。制作者が気軽に作品発表を して直に他人の感想を聞くことができ、来場者同士が交流できる場を目指して活動し続けています。上映会を始めたきっかけは、広島で隔年開催されている国際 アニメーションフェスティバルへの参加です。世界の様々な作品を5日間にわたって観ることができるこのイベントは、1985年から現在まで続く国内最大の アニメーション映画祭。初参加した1998年からすっかり虜になり、ここへ関わることでたくさんの元気をもらってきました。映画祭の中で、ある作家の方が 「ただ、観客でいるのではなく作品を本当に好きならばそれを残していくために何が出来るのかを考え行うことも大事」とおっしゃり、自分ができることはなん だろうと考えた結果、たまたま会場にも恵まれたので、地元で小さな上映会を始める事にしました。

上映会を始めた当初は、制作者本人がVHSビデオテープで持参した作品をモニタで上映し、私の司会でそれぞれの方にコメントを聞くという形式張らないもの でした。来場者も10名程度で入場無料のとても小さなイベントです。それから、告知とパンフレットを兼ねるフリーペーパーをイベントの前後に作っていまし た。制作者の知人がほとんどいなかったので、毎回の上映作品を集めるのが大変だったのと、フリーペーパーを制作し配布するのが手間だった思い出がありま す。その頃は、インターネットの通信速度が現在に比べてもっと遅い時代だったので上映会を行うことで、制作者の作品に出会える良い機会にもなりました。そ うやって数回のイベントを行ううちに、大きなスクリーンで映写してみたいと思うようになり思い切って公共スペースを借りての上映会を行いました。パンフ レットやフルカラーのDMを制作し、経費もかかったので思い切って有料イベントにし80名近い来場者を得ました。ただ、私にとっては痛い額の赤字となった のですごくがっかりして、依頼1年半ほど何もしませんでした。その後、様々なきっかけやいろいろな方の温かい手助けがたくさんあって上映会を再開し、今に 至っています。

私にとって上映会を行う意義は、好きなことを通じて社会と関わりそうした中で元気をいただくことです。また、様々なアニ メーションをたくさん観たい、作品の向こう側にいる作者とコミュニケーションを取りたい、そうして、より作品世界を深く味わいたいと考えています。作品を 通して作者のパーソナルがそこに映り育っていくのを観たいのです。作ることは、自分の心や生き方を目に見える形で取り出して観照することでもあると思いま す。生きていく中で、どんな表現でも良いので自分なりに続けていくことは制作物の最初の鑑賞者である自分に対して真摯に向き合う事ではないでしょうか。そ んな風にしている姿をたくさん見たいです。

これまでの集大成として、11月に名古屋大学内で上映会を行います。地域において、アニメー ション制作を学び、作り続けていくにはどうすればいいのかを皆で考える3日間です。それぞれの日を「観せる」「学ぶ」「作る」とテーマ分けし上映と講演や ワークショップ、展示など様々なプログラムをご用意しています。ぜひ、たくさんの方に足を運んでいただければと思います。

■イベントスケジュール
視覚文化をめぐる学際シンポジウム[みんなで育てるアニメーション]
日時:2008年11月1日(土)~3日(月・祝)
会場:名古屋大学野依記念学術交流館(名古屋市千種区不老町)
交通:地下鉄名城線名古屋大学駅2番出口より徒歩7分
参加費:有料1プログラム 学生500円/一般700円、無料プログラムもあり
詳細は→http://www.k5.dion.ne.jp/~mimicry/
mixiコミュ→http://mixi.jp/view_community.pl?id=338534


林緑子
名古屋市出身、アニメーションテープス代表

2008年6月15日日曜日

アートを学ぶコツ

「アートのコツ」は、アートホリックな方々にアートを楽しむコツを教えていただくコーナーです。今回は飯島聡子さんに「アートを学ぶコツ」を教えていただきました。


芸術学を大学通信教育に学ぶ

ちょ うど1年前の今頃は、大学の卒業研究に躍起になっていた。12000字の卒業論文を書くというプレッシャーは、“カオナシ”のようにいつも傍らに立ってい たし、先に進めず煮詰まった時には、天使が降りてきて耳元でささやいてくれないかと期待したこともあった。こんな幻覚や妄想を抱えながら卒論を仕上げ、今 年3月に卒業証書が届いた。5年の学生生活が終わった。
京都にある芸術大学を選んだ。この通信教育部の芸術学部には3つの学科があり、作品を制作 する〈美術学科〉と〈デザイン学科〉、私は理論的研究をする〈芸術学科〉に入学した。今回はその学生生活を振り返り、簡単に紹介しよう。通信教育の大学で はテキスト科目とスクーリング科目によって単位を積み上げていく。

例えば、各美術史(日本、ヨーロッパ、アジアなど)は、テキスト科目と スクーリング科目が重複しているが、いずれか一方、両方の受講も可能だ。とにかく通信教育は本人の自由裁量度が大きい。受講科目によっては、「指定科目の 単位を修得のこと」条件がつくこともあるので予めチェックし、履修計画をたて、翌年も見込んで長期戦に臨む感じだ。計画の頓挫という経験も含めて履修を進 めた。

テキストのレポートでは、図版と向き合ってじっくり観察し言葉にすることが求められる。美しいと感じたなら、それは何故か。自ら問いを立てて答えていかなければならない。
ス クーリングでは、各地の地域遺産をたずねたり、博物館や美術館の見学も組み込まれることがある。また美術館の学芸員、ギャラリーの主宰者が講師となり、美 術の現場がリアルに授業に映し出されることもあった。受講者と情報交換をして面白い科目を薦め、モチベーションを高めあったり、学内にはいくつかギャラ リーがあって、通学部の学生や活躍中の作家の作品を昼休みにまわった。余裕があれば京都市内の美術館やギャラリーを回るなど楽しみも多い、非日常であった ことも間違いない。

〈芸術学科〉について「芸術の持ってきた意味とこれからの社会で果たしうる役割を考える」と学校は案内している。私の 場合は、芸術がどのように語られてきたかに関心が集中し、卒業研究では地域を絞り、芸術を語る場―美術館―の生成について考察した。芸術は決して、均質な まなざしに晒されているわけではない。われわれは時代や場所といったさまざまな影響のもとで芸術を語っているのだ。その当たり前のことを5年かけて学んだ といえるだろう。

参考までに
・単位修得のシステムやスクーリングのプログラムについては学校によって異なり、
 また年度によって変更されることがあるのでご注意を。

・毎年1月下旬から3月にかけて、通信制の大学が集まり全国各地で説明会を開催して
 います。パンフレットの入手と各大学関係者と面談が可能。

・「私立大学通信教育協会」でweb検索が可能。

・ 通信教育は楽しいだけではありません。読み物としても面白いのは、
 『大学通信教育に学ぶ人のためのスタディガイド』慶應義塾大学出版会(2005年)、
 在 学中には救われ、卒業して読み直したら笑いも出る。
 つまり、通信教育に学ぶことについてのリアルなガイドと言えましょう。
 


飯島 聡子

『乱歩と名古屋』を一読、都市の表象に興味わく